2017年11月13日月曜日

法制度の問題を確実に得点するには?

社会福祉士の国試は19科目がありますが,分類すると,法制度が中心の科目と理論が中心の科目の2種類に分けることができます。

得点力を上げるためには,法制度が中心の科目の攻略は欠かせません。

理論が中心の科目でも,推測することができますが,制度系が中心の科目の方が推測できる可能性が高いです。

なぜなら,法制度は必然性があって作られたものだからです。

「社会理論と社会システム」の中では,「抑圧的法」「自律的法「「応答的法」というものを学んだと思います。

現在の法の多くは,「自律的法」です。

自律的法は,政治から切り離されたもので,多くの人が納得,受け入れることができる法律です。

福祉の法の中には,限られた財を分配するために,「必要原則」や「貢献原則」,などの福祉政策が取られ,時には政治力も必要な「応答的法」も存在します。


しかし,近代社会は,ウェーバーが示した「合理的支配」なので,支配者が恣意的に作った前近代的な「抑圧的法」とは違います。


ちょっと難しめな話ですが,要は,法律には必然性があるということです。


最も端的に示すのは,「法の理念」です。

法制度を学ぶ時には,この法律は,何のために作られた法律なのかを意識しましょう。
そうすると,知らない法制度でも,推測することができるようになります。


1・2点が合否を分けることも多いだけに,知らないものでも得点に結び付けて行くことが必要です。


頻出ではない外国人の名前を覚えるよりも,これからはこういうところに時間をかけたいです。


さて,今日の問題で取り上げる法律は,「労働基準法」です。


労働基準法には,「法の理念」に相当する部分がありません。

しかし,その分,法の冒頭部分には,この法の重要なポイントが書かれています。

労働基準法

(労働条件の原則)
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

○2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

(労働条件の決定)
第二条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
○2 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

(均等待遇)
第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

(男女同一賃金の原則)
第四条 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

(強制労働の禁止)
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

(中間搾取の排除)
第六条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

(公民権行使の保障)
第七条 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。
但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。

第八条 削除

(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。


これで分かると思いますが,労働基準法は,労働者保護を定めた法です。

因みに日本の労働者保護の最初の法律は,1911年の「工場法」です。
同法は,戦後に労働基準法ができるまで存続しています。


夜警国家と言われる古典的な自由主義,そして資本主義は,さまざまな弊害を生み出しました。

現在では,それらの失敗を修正して,福祉国家が作り上げられています。

古典的な自由主義及び資本主義の弊害の一つは,貧困問題です。資本家(事業主)よりも労働者が弱いためです。

そのために作られた法律の一つが「労働基準法」です。


前置きはこのくらいにして,今日の問題を見てみましょう。


第25回・問題143 

労働基準法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。


1 労働関係の当事者は,労働基準法の基準を理由に現状の労働条件を引き下げることができる。


2 労働者とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。


3 労働することを条件として,使用者が金銭を前貸しして,後日,賃金と相殺することが認められている。


4 都道府県労働局長は,労働基準法の規定により労使双方又は一方から紛争解決援助を求められた場合,必要な助言又は指導を行う。


5 使用者は,労働契約の不履行について,違約金を定めたり,損害賠償を予定する契約を結ぶことができる。


第1~10条に書かれている内容の中のものから出題されていますね。

しかし,さすがはものすごく難しかった第25回の国家試験問題です。

簡単には正解させてはくれません。


それでは,詳しく見て行きましょう。



1 労働関係の当事者は,労働基準法の基準を理由に現状の労働条件を引き下げることができる。




労働基準法は,労働条件を定めた法律です。

しかし,それは最低基準です。

労働基準法の基準まで引き下げることができたとしたら,労働者保護のための法律であるにもかかわらず,法が定めた労働条件によって,労働条件を悪くさせることにつながってしまいます。

そんなことがあってはならないことです。

もちろん引き下げることはできません。

よって間違いです。



2 労働者とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。



これは,法9条をそのまま出題したものです。

よって正解です。


しかし,法を知らなければ,簡単に〇はつけられないものだと思います。
こんなところが,第25回の国試らしいと言えるでしょう。



3 労働することを条件として,使用者が金銭を前貸しして,後日,賃金と相殺することが認められている。



戦前,工事関係などで労働者不足に陥った事業所が,周旋屋と呼ばれる民間職業紹介事業者と組んで,労働者に給料を前借りさせて,それと引き換えにタコ部屋労働に就かせるということが行われました。

女性の場合は,
周旋屋が親の借金の棒引きやわずかなお金を渡して,娘を女郎屋に売ってしまうといったことが行われました。

このように前貸しは逃げられない状況を生み出します。これは労働者の権利を奪うことになるので,これは絶対に認められるものではないものです。


因みに,1956年に成立した売春防止法では,都道府県に婦人保護施設の設置を義務づけています。

これは管理売春から女性を逃れさせるためのシェルターとして作られたものです。これが現在では,DV被害から逃れるためのシェルターとして機能しています。



4 都道府県労働局長は,労働基準法の規定により労使双方又は一方から紛争解決援助を求められた場合,必要な助言又は指導を行う。



これは,ものすごく難しいです。

さすがに第25回の問題だと感じさせます。

都道府県労働局長は,労使双方又は一方から紛争解決援助を求められた場合,必要な助言又は指導を行っています。

しかし,その根拠法は,労働基準法ではなく,男女雇用機会均等法やパートタイム労働法などなのです。

よって間違いです。


とても難しいと思いますが,勘の良い人なら,この選択肢に不自然さがあることに気づくはずです。


なぜなら,この問題は「労働基準法」に関する問題であるにも関わらず,選択肢の文章の中にわざわざ「労働基準法の規定により」という条件を付け加えているからです。


もし,これが正解選択肢であるなら

都道府県労働局長は,労使双方又は一方から紛争解決援助を求められた場合,必要な助言又は指導を行う。


という文章で良いはずです。


しかし,これでは,不適切問題になりかねません。

というのは,労働基準法ではないけれど,助言・指導は行っている,という反論が出る恐れがあるからです。


確実に間違い選択肢にするには,いろいろな苦労があります。
それらに気づけると得点力は確実にアップします。

過去問に取り組む意義の一つとしてとても大きなことです。



5 使用者は,労働契約の不履行について,違約金を定めたり,損害賠償を予定する契約を結ぶことができる。



労働基準法は,労働者の権利を守るためのものです。権利保護にならないものは,法で規定されているわけはないと考えましょう。

もちろんこんなことは認めていません。よって間違いです。


<今日のまとめ>

法は,基本的に「自律的法」であると考えて,性善説的に問題を解くようにしましょう。

これが知らない法制度に対して,推測する時のコツとなります。

国のやることには理不尽さを感じることもあるかもしれません。しかし,法自体は納得できるものであったとしても,法を受けて出される省令や施行規則などに問題があることが多いものです。


「国がやることはたいてい良いことはない」などという気持ちが頭の隅にあると,迷いの森に迷い込みます。蟹工船の時代ではないのです。

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